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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)815号 判決 1967年6月06日

上告人

尾山正雄

右訴訟代理人

大原篤

大原健司

村林隆一

被上告人

愛知繊維株式会社

右代表者

牧野新二

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人大原篤、同大原健司の上告理由第二点および上告代理人村林隆一の上告理由第二、(一)、(三)について。

上告人は訴外呉羽交易株式会社(以下、単に訴外会社という。)に対し自己の商号、名称として使用していた「中村商店こと中村寿正」名義の使用を許諾したこと、右許諾は銀行との当座預金取引および手形行為上の名義使用についてなされたこと、訴外会社は右許諾に基づき本件各為替手形の引受人欄に右名義で記名押印をしたこと、被上告人は右各手形の正当な所持人であり、右名義人が引受人であると信頼したことは原審の確定したところである。原判決は、右のような事実を前提として、上告人は、商法二三条の規定に基づき、被上告人に対し引受人として本件各為替手形金を支払う義務を負うとしている。

しかし、商法二三条にいう営業とは、事業を営むことをいい、単に手形行為をすることはこれに含まれないと解すべきところ、前記確定事実によれば、前記許諾は訴外会社の営業である繊維製品販売業についてなされたものでないことが明らかであるのみならず、同条は、他人の氏名商号等を用いて営業をした者(営業主)が第三者との取引において債務を負担した場合において、その氏名、商号等の使用を許諾した者に対しても、営業主の右債務につき連帯責任を負担させることを定めたものと解されるところ、手形行為の本質にかんがみれば、ある者が氏名、商号等の使用を許諾した者の名義で手形上に記名押印しても、その者自身としての手形行為が成立する余地はなく、したがつてその者は手形上の債務を負担することはなく、その名義人がその者と連帯して手形上の債務負担することもありえないから、この点からみても、手形行為上自己の氏名商号等を使用することを許諾したにすぎない者については、同条は適用されないものと解するのが相当である。

しかるに、原判決は前記のような事実関係のもとにおいて、たやすく上告人について商法二三条の適用があることを認め、上告人が本件各為替手形につき債務を負担する原因について進んで審理判断することなく、被上告人の請求を認容しているのであつて、原判決は同条の解釈を誤り、ひいては審理不尽の違法を犯したものというほかなく、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

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